共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

レポート

フェルミエチーズツアー 「ロンバルディアのチーズを訪ねる旅」に参加しました。(2014.10.26)

去る9月15日(2014)から約1週間、北イタリア・ロンバルディア州のチーズ工房やオーベルジュ、ファームレストランなどを訪問してきました。強く印象に残ったことなどをご報告します。

chinyo1まずアニャデッロという村に「チーニョ社を訪ねました。エントランスには1960年代の創業時に配達に使ったオートバイが展示されていて、地域の酪農家のミルクを伝統的な手法で加工している中堅メーカーです。モッツァレラやマスカルポーネ、リコッタなどフレッシュ系のチーズが中心です。例えば工程によってカード(凝乳)のタンクを油圧によって持ち上げるなど、現代の技術が積極的に導入されていますが、これはポンプを通して乳質を落としてしまうことを避ける仕組みです。モールディング(型入れ)も、カードへのストレスを減らすために手で行っています。歴史に淘汰されてきた伝統の技術を、現代の機械によって再現していることが印象的でした。

次に、ガルドーネ・ヴァル・トロンピア村の標高800mくらいのところにあるごく小さな工房「ノストラーノ・ヴァルトロンピア」を訪ねました。山に放牧している10数頭のブラウンスイスのミルクから熟成タイプのハード系チーズを作っています。なにもかもが千年も変わらないような作り方で、感銘を受けました。ミルクを銅製の釜に入れて、加熱の熱源は薪。そしてスターター(発酵を促すための乳酸菌)を使いません。銅釜で加熱したミルクは楓の板で攪拌されるのですが、毛むくじゃらの腕でそのままやってしまいます。そして混ぜ終わるとこの板をそのまま残しておきます。つまり楓の板にしみ込んで生きている乳酸菌がスターターになるのです。カードをプレスすることもせず、そのまま麻布でくるんでいきます。良い牛乳に良い状態で乳酸発酵を進めると、雑菌の入り込む余地はありません。銅釜、楓の板、麻布なども、発酵や抗菌のために理にかなった道具です。
現在の日本の衛生基準を照らすととんでもないことをしている、と思われるでしょう。しかし彼らは、この方法で千年もチーズを作ってきました。もちろん当初はいろんな失敗があり、試行錯誤があったでしょう。しかし一度作り方が確立されると、もう変える必要はなかった。そのはるかな時間に淘汰されて完成されたのが、この土地のチーズなのでした。しかもこのチーズに、国はちゃんとDOP(保護指定原産地表示。フランスのAOC・原産地呼称統制と同様の法律)の認証を与えています。イタリアの食文化の分厚さが実感できました。

ゴルゴンゾーラの原型であるストラッキトゥンを作っているアルプスの工房も印象的でした。標高1500mにもなる山の放牧地で夏をすごした牛がふもとに還ってくる途中にある村です。ゴルゴンゾーラチーズは、前日の夕方にしぼった牛乳で作ったカードに、その朝しぼったフレッシュな牛乳で作ったカードを混ぜることで生まれました。性質が微妙にちがうカードは完全には混ざりきらず、その空気の隙間に青カビが入ったのです。人々はそこから、カードに針を刺して空気を入れて青カビを作るといった、土地ならではのブルーチーズづくりの手法を生み出していきました。
ストラッキトゥンは、しぼってすぐ作りはじめるので加温をしません。長い歴史が証明してきた、自然の発酵作用がもたらす安全性が認められているのです。そしてスターターを使わず、プレスもしません。この古典的なチーズが、現代の設備を使って昔の原理のまま作られていました。しかも、近年になってこれもDOPの認証を取りました。
興味深いことに、ストラッキトゥンは季節はもとより熟成の差で、ひとつひとつ微妙に味わいが異なります。日本では、「このあいだおいしかったからまたこのチーズを買おう」と考える方もいらっしゃるでしょう。そういう方にとっては、ひとつひとつ微妙に味がちがうのは、許せないかもしれません。しかしイタリアの人々はそう考えないのです。自然のままに作っているのだから味が多少違うのは当たり前。だから良いんだよ、となります。彼らにとってチーズは、工業化されていない食品の代表的な存在です。そこには、なにもかも均一で効率的な世界を求める工業化によって失われていないおいしさがある。ストラッキトゥンのDOP認証には、そうした価値観が強くあらわれていると思います。
ここではホテルとレストランも経営していて、小さな村に貴重な雇用を生み出しています。

山を下りて、フィレンツェの農業祭に一角にあったDOP(保護指定原産地表示)とIGP(保護指定地域表示)のPRコーナー

山を下りて、フィレンツェの農業祭に一角にあったDOP(保護指定原産地表示)とIGP(保護指定地域表示)のPRコーナー

次にビットストーリコという、ハード系の長期熟成チーズの工房とショップを訪れました。ビットは夏に放牧した牛の乳だけで作られる高級限定チーズで、本来は10%程度羊乳を入れるものでした。しかしDOP認証で牛乳100%で作っても良いことになったため、21世紀なって、あくまで伝統にこだわって作ったものをビットストーリコとして差別化したのです。それが折からのスローフード運動を追い風にして、当たりました。
ここの経営者はなかなかのやり手で、ビットストーリコを熟成工程がはじまるときに買ってもらい、買った人は好きな名前やメッセージ、絵などを書き込むことができます。そして8年から10年後に受け取ります。子供が生まれたから、入学したから、結婚したからと、人々は大切な記念日にこの高級チーズと近未来への物語を買います。この手法が大きな話題を集めてヒットになりました。
つまりこの社長は、10年もかかってその間は利益を生み出さない製品を最初に買ってもらうことで、伝統の高品質チーズを作り続けていく仕組みを作りました。伝統を守れ、文化を守れと口だけで言っても、社会は受け入れてくれません。

上質なリゾート地であるコモ湖近郊の牧場も興味深く訪問しました。ここは水牛が主体で、家族で900頭以上飼育しながら、この秋は250頭を絞りながらモッツアレラ、カチョカバロ、リコッタなどを作っています。向こうでは角切りをしていないのも、お国柄の違いを感じました。

またこの牧場とはちがいますが、あるファームレストランで寿司をごちそうになりました。お寿司いかがですか、と言われたとき一行は当然のように苦笑いしながらちょっと引いてしまったのですが、予想よりもずっとおいしくて驚きました。ミラノ郊外ではジャポニカ米がたくさん栽培されているそうです。なかでもびっくりしたのが、モッツァレラの寿司。モッツァレラチーズと酢飯、そしてわさびと醤油。この組み合わせはすばらしいもので、イタリア人はちゃんと気づいています。

(テキスト編集/谷口雅春)

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宮嶋 望の発言

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

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