共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

共鳴が生み出す調和と成長

ヨーロッパのチーズコンテストの審査は、日本人の目からは驚くほどスピーディに進みます。審査員たちは、ほとんど見た目の第一印象で良し悪しを決めていくのです。色や形や官能(味わい)にまつわる細かな評価項目の評価は、なかば後付けで記号化されていくといえるでしょう。なぜそんなことができるのか。それは、「自然の法則に正しくのっとって作られたものは美しくおいしい」からです。美しいもの、おいしいものには法則があり、そもそも生きものたちはそういう法則にのっとって生きています。だからそのチーズがそのような法則を使ってできていれば、おのずから美しく輝くようなたたずまいをしている。審査員たちはまずそこを見るのです。
チーズは、さまざまな微生物たちのとても複雑な働きや関わりでできあがります。ちがう性質のもの同士が響き合い共鳴を起こすことで、それぞれが持っていた性質とはまた異なる新たな価値が生まれます。チーズに限らず、自然界はもともとそういう仕組みで成り立っているのです。生きものは単体ではなく、ほかのたくさんの生きものや土地の環境、自然現象などと複雑に響き合って安定した営みを世代を越えて維持しています。そうした共鳴現象のことを僕たちは自然と呼び、自然は、異なるもの同士が響き合うことで、大きく捉えればおだやかな世界を作り出している。人間のものづくりも、自然界のそうした波長にうまくチューニングすることができれば、必ずうまくいく。自然由来の異なるものが響き合うことで、チーズのような新たな有機物が作られていくのです。
そして動植物から微生物にいたるまで、すべての生きものたちは太陽というたったひとつのエネルギーを、とても賢く十分に使い切って生きています。考えてみれば当たり前のことかもしれません。けれども残念なことに、人間はちがいます。エネルギー源をあちこちにたくさん作って、それをあまり効率が良いとは言えない方法で懸命に分配しながら生きている。自然界の生きものたちに比べて、なんてへたくそなんだろう、と思いませんか。人間の世界の外では、おびただしい種類と数の生きものたちが、太陽というたったひとつのエネルギーを上手に使っていのちを繋いでる。それが生きものの原点なのです。ものづくりもそこを外してはいけません。

こうした考え方は、人間の社会や個人の心にも広げていくことができます。生い立ちや心身や現在の暮らしなどを比べてみると、全く同じ人生を歩んでいる人はいません。すべての人にはその人だけの資質があり人生があります。そこで互いを否定したり、個性を打ち消すようなことをすれば、社会全体が立ちゆかなくなるでしょう。世界に同じ人がふたりと存在しないからこそ、「ハーモニー」が生まれます。
また一方で人間の個性は、少しも変えられないほど不自由で厳格なものではありません。例えばヴァイオリンやチェロやコントラバスといった楽器は、ギターとちがって音程を厳密に固定させるフレットがないぶん、音程や響きを微妙に変化させながら、全体ですばらしい響きを作り出すことができます。オーケストラの魅力はそこにあるわけですが、これは人間の社会でも同じです。人間にもいわばあそびがあって、人との関わりを微妙に調整し合うことができる。だから調整を繰り返しながら異なる者同士がうまく響き合うことで、一人一人がもっていたものとはちがう新たな価値が、全体として生まれてくるのです。ひとつの考えで全体を貫こうとする原理主義では、社会は成り立ちません。

心身にいろんな困難を抱えた人たちが70人以上集まって暮らしている共働学舎新得農場は、まさにこういう考えによって運営されてきました。全体のためにひとりが犠牲になるのではなく、それぞれの個性の本質を守りながら、むりなくできる範囲で、一人一人が少しずつ調整し合っていく。すると全体がすばらしく共鳴するようになり、個人の人間の幅も広がっていきます。全体の中で多様なその人らしさを維持していくからこそ、うまく響き合ったときにすばらしい世界が現れます。
僕たちのチーズ作りもまた、こうした考えの上にあります。それはまた、そもそも自然界で生きものたちがやっていることでもあります。生きものたちの原点に根ざしたチーズ作りやもの作りについて、これからさらに考え、実践していきたいと思います。

「2015.04.03 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

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INDEX

宮嶋 望の発言

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

レポート