共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

日本のチーズ、新時代へ

去る6月(2015年)、フランス中西部のまちトゥールでチーズと乳製品の見本市「モンデュアル・デュ・フロマージュ(Mondial du Fromage)」が開催されました。共働学舎新得農場も参加しましたので、そのレポートと総括を3回にわたってお話します。

「モンデュアル・デュ・フロマージュ」は、ヨーロッパを中心にした世界のチーズのプロフェッショナルたちが一堂に会して、見本市で最高品質のチーズと出会ったりさまざまな交流を広げて、チーズの世界を盛り上げていこうという大きなイベントです。目玉になるのが、チーズコンクールとフロマジェコンクール。フロマジェとは、専門店やレストランでサービスを担うチーズのスペシャリストです。前回の開催は2013年。今回は運営がリフレッシュされ、チーズコンクールへの中国やイスラエルの参加も話題を呼びました。

フロマジェコンクールで優勝したのは、ナチュラルチーズ専門店フェルミエ愛宕店(東京都港区)の店長ファビアン・デグレさん。この部門では、チーズに関する知識や実際のテイスティング、そしてカッティングの技術や、お客さんへのプレゼンテーション力(フランス語か英語)などが競われます。ファビアンさんと僕たちには深い親交があり、彼は今回のプレゼンテーションに「さくら」を使ってくれました。4月には新得に来て、製造担当者と綿密な打ち合わせをしていたのです。

毎年同じネーミングで生産していても、僕たちのチーズは少しずつ進化しています。「さくら」も例外ではありません。彼は「さくら」が、これまでどのような考えでどんなふうに改良されてきたのかを、あらためて詳しく知りました。特に今年からは発酵菌の中に、これまでのフランス産のアルコール発酵酵母ではなく、僕たちの「酒蔵」に使っている日本酒の酒母を使うことにしたので、そのことを詳しく理解していただきました。この酒母によって、「さくら」の風味のバランスやマッチングがさらに良くなったのです。
本番で彼は、そもそも「さくら」がどんな土地で作られているどんなチーズであるかを熱く説明しました。日本人の感性にとってサクラの花がもつ意味や、その葉に含まれるクマリンという成分には抗酸化作用があり、日本では古くからいろいろな食品に応用されていること。そして「サクラ」は、フランスの模倣ではなく、さらにいっそう日本のチーズと呼ぶにふさわしい仕上がりになったことなどを実にいきいきとプレゼンテーションしたのです。
コンクールではそのほかに、大きなホールを目見当だけで250gに切り分けていくといった技術も問われます。審査員は、ワンカットずつの重さを測定していきます。指定されたチーズ群を、与えられたテーマを受けて一枚の皿の上に美しく創造的に盛りつけるプラトーという部門でも、彼は8年に及ぶ日本でのキャリアを存分に活かして、見事な仕事をしました。誰もが思わず手を伸ばしたくなるようなダイナミックな盛りつけが、バランス良く実現していました。僕はその場にいて、予選を勝ち上がった12名の中でファビアンの力は図抜けてるな、と感じました。日本在住のフランス人が世界最優秀のフロマジェになったというニュースは、関係者たちに「食の国日本」という印象も強く与えたと思います。

 

さて、次の日がチーズコンクールです。
前日のフロマジェコンクールで優勝者のファビアンさんが「さくら」を使ってくれたおかげもあり、審査員や会場には「さくら」の好印象がありました。はたして「さくら」は、ゴールド(金賞)をいただくことができました。ほかにゴールドには、広島県の敷信村農吉チーズ工房のモッツァレラ、北海道江別市の町村農場のクリームチーズ、広島県の三良坂フロマージュのシェーヴルと、日本の4工房が入りました。応募全体が世界から600くらいで、そのうちゴールドに入ったのは40ちょっとです。
しかし、実はそれ以上の出来事がありました。
ゴールドの上を行くスーパーゴールド(全部で20品ほど選出)に、日本のブルーチーズが2品入ったのです。ひとつは、長野県のアトリエ・ド・フロマージュのもの。もうひとつは、千葉県の高秀牧場チーズ工房。アトリエ・ド・フロマージュさんは、僕たちが十勝に何度も呼んで技術を学んだフランスのジャン・クロード・モランさんから指導を受けて実力をつけてきました。高秀牧場チーズ工房の吉見さんはうち(共働学舎新得農場)で研修していた時期もあり、北海道洞爺湖サミット(2008年)の晩餐会に僕たちのチーズが採用されたときに、会場のザ・ウィンザーホテル洞爺のレストランでフロマジェとして働いてくれた青年です。
大会初日から、日本のブースはちょっとした話題を集めていました。フランス人たちが、日本のブルーチーズがうまい、おもしろい、と盛んに言って噂になっていたのです。その中には、フルム・ダンベールやロックフォールといった、フランスのブルーチーズの最高レベルの職人たちもいました。職人や関係者は日本のこのふたつの工房にさかんに質問を投げかけました。しかしまぁ言葉の問題もあり、年の功で、だいたい僕がそばにいて彼らになりかわって英語で答える役目だったのですが(笑)。

 

※2015.08.25札幌にて

「2015.09.11 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

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