共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

2017年の春に

共鳴力が組織や社会を強くする

去る1月末(2017年)に、『共鳴力』(地湧社)という本を上梓しました。これは、規模と効率を求めるあまり、強いものが弱いものを切り分けて捨てていこうとするような現代の風潮に対して思うところを、共働学舎がこれまで実践してきたことを整理しながら綴ってみた本です。強いものと弱いもの。それは現代に生きる人であり街であり、いろいろな単位の地域のことです。強いものと弱いものの差が広がっているにも関わらず、そのことに社会の注意が払われることは逆に少なくなっているように感じます。

共鳴力の話をするとき、僕はよく樹木が太陽の光を吸収する方法を例に上げます。人間の目に太陽光は一様に見えますが、実は波長の短い青い光から波長の長い赤い光まで、さまざまな波長(色)のものが合わされてできています。例えば波長が長いために遠くまで届く赤い光は、昼間よりも長く大気の中を通過する夕暮れでも人に届きます(波長の短い青い光は届かない)。だから夕陽は赤くなるわけです。そして樹木は、こうしたさまざまな太陽光を万遍なく受け取れるように自らを形づくっています。
そもそも光は電磁波の一種です(電磁波の幅広い波長帯のごく一部が可視光です)。アメリカのフィリップ.S.キャラハン博士は、樹木のいろんな枝に電磁波の測定器をたくさんつけて、植物の光を取り込むメカニズムの研究を重ねました。測定した値は、複数の規則的な波形が細かく組み合わさった、きれいな複合波を描きました。これはつまり樹木のいろいろな枝は、それぞれに共振する波長のエネルギーを束ねて、好みの波形をつくって吸収することができる。逆に言えば、そうするために幹や枝の形を自分で作りだしているということ。季節や太陽高度に合わせて光とうまく共鳴する枝葉がそれぞれにあるわけです。ある時点では働きの少ない枝葉であっても、それが中心として機能するタイミングがある。だからムダで無意味な枝葉はひとつもない(僕は1996年に博士をフロリダの自宅に訪ねて、3日にわたってその幅広い理論をじっくり学ぶことができました)。
博士の研究は僕たちに多くの気づきをもたらします。もし樹木がただ一本のアンテナのような形をしていたら、満足な光合成は絶対にできません。さまざまな形の枝葉がつくる「共鳴力」があるからこそ、効率良く安定して光合成ができるのです。

チーズ作りも同様です。ミルクをチーズに変化させていくプロセスには、どんなチーズでも10数種類の微生物の働きがあります。それぞれの微生物には活発に活動する条件やタイミングがあり、チーズ職人たちは、どのタイミングでどの菌にどのように活動してもらうかという計画を立てます。全体の中でどこを強調するかでチーズの種類が決まってくるのです。例えば共働学舎の「酒蔵」だと、最後に働くのがリネンス菌。ですからリネンス菌が元気に活動してくれるように、糖分を最後まで適度に残すようなレシピを作ったのでした。
何種類もの微生物が複雑に活動するさまは、チーズを舞台に発酵という「共鳴」が起こっているとも言えます。良い共鳴は、ひとつの菌だけでは決して起こりません。パスツール(1822〜1895)が発酵や腐敗のメカニズムを近代科学によって解き明かすはるか前から、ヨーロッパの人たちはこうした原理を知り、営々とチーズを作り続けてきました。彼らはすなわち、自然の中から見いだした法則を方法化して、牛乳を無殺菌のまま長く食べられる固形の保存食(チーズ)にしてきたのです。牛乳を腐らせてしまう腐敗菌を押さえ込み、発酵菌の働きによっておいしく安全に熟成させる。チーズを作った文明は、電気も高圧蒸気もない時代に「共鳴力」を活用することに長けていました。20世紀以降の文明は、このことの意味や価値を忘れがちです。

共働学舎には、心身にハンディを持ったたくさんの仲間たちが暮らしています。社会的に見ればとても「弱い」人たちです。でも僕たちは機械や鉄に頼らない方法を確立することで、弱い人たちでもできる、ヨーロッパの歴史風土が伝えてきたチーズ作りを新得の地で行っています。そしてそれは、共働学舎の中に強い「共鳴力」を安定して生み出すことにもつながっています。豊かな響きを奏でるオーケストラが人々を感動させるように、「共鳴力」は組織や社会を強く豊かにするのです。
どんな分野においても、硬直した原理主義は共鳴力を生み出せません。人間の社会も、ひとつの基準やひとつの主義だけでできていたとしたら、短命に終わってしまうでしょう。いつか来るかもしれない大きなリスクに備えるために、生物の種や人間の組織には多様性が必要である——、と言われます。僕たちはこれをさらに一歩進めて、社会にはむしろ「弱いもの」が必要なんだと考えています。創造力に満ちた強い共鳴力は、強い人ばかりでは決して生まれないからです(このことは父・宮嶋眞一郎の思想を述べたページで詳しく述べました)。

機械と人間の関わりで考えてみましょう。
日本の中でも有数のスケールで規模と効率を求めてきたのが十勝の農業です。近年ではGPSやIoTの応用で無人トラクター(畑作ロボット)の取り組みも進められています。無人トラクターにつけたセンサーによって生育の状態を把握しながら、追肥までこのロボットトラクターがやってしまう。科学技術の進歩はすばらしいことだし、高齢化や後継者問題が深刻化する日本の農業で、こうした針路は避けられません。
しかしその一方で、これがどんどん進むと人間は何のために仕事をするのか、という少し哲学的な問題と直面することになります。また食糧の役割は空腹を満たすことにあるのだから、ロボットが効率良く作るのが望ましい、という理屈が広がっていくかもしれない。でもそこまでいくと僕は違和感をおぼえます。食べ物とはほかのいのちをいただくことですから、ほかの生きものたちとの直接のやりとりや対話が欠かせない。そう思うからです。そうしたことが食べ物の価値を増し、たくさんの動植物や微生物たちといっしょに生きている人間に、生きていることの意味を教えてくれます。私たちの毎日や長い人生もまた、いろんな生きものたちとの「共鳴」によってこそ成り立っている。その根を絶って機械任せにしてしまっては、人間が人間として生きられないのではないでしょうか。

共働学舎新得農場のチーズは、機械ではなくあくまで人の手仕事で作られます。ですから生産量や価格は大工場で大量生産されるチーズに到底かないません。しかし僕たちのチーズには、工場で作られるチーズが持っていない「質」がある。共働学舎はそのことに価値を見いだしてくださる方々とつながっているし、これからも深くつながっていきたいと思います。それはつまるところ、ロボットにできない分野の仕事、人間が人間であるために大切な仕事のはずです。そしてそうした仕事の現場に豊かな「共鳴力」を生むためには、やはり弱い人の存在が重要なのだと思います。

カフェとショップのある、共働学舎新得農場「ミンタル」

「2017.05.26 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

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宮嶋 望の発言

12という数字から

大病から生還して

土地に根ざしたものづくりの新展開

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

レポート