共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

乳製品市場の成熟とは?

日本のナチュラルチーズの消費量は、着実に増えてきました。これを指して「乳製品市場の成熟」という言葉も使われます。僕に言わせれば、市場の成熟とは、牛乳が「飲むものから食べるものに変わってきた」ということなのです。
牛乳が大好きな方がいる一方で、牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなる、という方もいます。これは、自然の摂理に立ち帰ればある意味自然なことだとも言えます。牛乳はそもそも、仔牛のためにあります。生まれた牛たちは母親のミルクで育ちますが、彼らの胃袋にとっても、実は牛乳はそのまま消化できるものではありません。仔牛は胃の中でレンニンという酵素を出して、ミルクのタンパク質を固めます。そこから栄養を摂り、それ以外の水分(ホエー)は排泄されます。つまり彼らは、胃の中でチーズを作って食べているのです。
しかし、仔牛にとってこんなに楽ちんで快適な時期は長くは続きません。体重が生まれたときの3倍くらいになると、この酵素が出なくなり、彼らは仕方なく草を食べるようになり、独り立ちします。
人間も同じですね。いつまでもお母さんのおっぱいを当てにしていては成長はおぼつかない。だから離乳期が来ます。それは、乳糖を分解するラクターゼという酵素が出なくなる時期のこと。実は、チーズ作りの工程では、乳糖を残さないことが大切なのです。だから人間の大人も、哺乳動物の消化の原則に照らして、ミルクをチーズとして摂取することが自然なのです。乳製品市場の成熟の背景には、こうした要素があることも意識してみてください。

味覚の面でも、日本の市場は確実に変わってきました。僕たちが最初にラクレットを作ったのは25年前ですが、当初はまったくの不評でした。チーズを焼いて食べることになじみがありませんでしたし、独特の匂いが毛嫌いされたのです。でも作りがいのある大好きなチーズなので、なんとかがんばって作りつづけました。そして1998年のオールジャパン・ナチュラルチーズコンテストでグランプリをいただいて専門家に認められてから、ようやく広がりはじめました。最近は生産が需要に追いつかない状態です。これは別にふれますが、いまでは十勝の工房が集まって十勝ブランドのラクレットを作ろうと動き始めています。ここまで25年かかりました。
「酒蔵」というチーズも、新しいステップにあるチーズです。これは乳酸発酵をうながすスターターと共に日本酒の酵母を用いて、日本らしい味わいを出したもの。日本酒でウォッシュして仕上げていきます。わかりやすいメイドインジャパンのチーズです。近年ようやく評価を受けて生産も軌道に乗りましたが、ここまで来るのに9年かかりました。
世界のチーズの歴史は数千年前にさかのぼります。自然を相手にしたものづくりには、長い時間がかかるものです。チーズの世界には、工業やITの世界のような、あっという間に時代を革新してしまうような画期的なブレイクスルーはありません。

「2015.04.03 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

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宮嶋 望の発言

12という数字から

大病から生還して

土地に根ざしたものづくりの新展開

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

レポート