共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

「共働学舎新得農場の成り立ち」

いのちは、エネルギーの流れで活気づく

共働学舎では、酪農やチーズづくりなど、現場の中心には共に暮らすプロフェッショナルがいますが、そのまわりにいる人は、いろんな負担を抱えた人たちです。でも誰も何かを厳しく強制されることはありません。その日にすることは、誰かが指示をするのではなく、全員が自分で決めます。ミーティングではそれをひとことずつみんなの前で口にします。今日は野菜の皮むきをする、畑に出る、掃除をする、あるいは今日は休み、と。みんなムリのない範囲で仕事をするから、ストレスは少なくて済みます。

1980年代のはじめくらいに、僕は過労がたたって10日ほどぶっ倒れてしまったことがありました。僕は自由学園で、知力と体力、そして精神力を尽くして世のリーダーとなれ、と厳しく教育されましたから、それまでは相手のことをいろいろ忖度(そんたく)しながら、毎日こまかな指示を出していました。ところが倒れてしまった。
現場に復帰するとき、牛は死んでいるかもしれないな、と覚悟しました。ところが全頭ピンピンしていて、ちゃんと搾乳もできている。みんな曲がりなりにもやっていました。そこで気がついたのです。どんな人にも、自分で仕事をする意思がある。そして、やり方さえわかっていれば、自らやる。
朝食のあとのミーティングで僕は、「みんなありがとう。ところで、今日、おまえは何やるの?」と聞いてみました。それ以前ではそんな質問自体が考えられないことです。みんな困った顔をしながらも、牛舎を掃除するとか、餌やり、などと口にします。しめた! と思いました。それが現在でも続いているのですが、重要だったのはみんなが、乳牛をはじめとした生きものと関わっていたことです。世話をしなかったら死んでしまう。人には、生きているものと付き合うことが、とても重要なのです。

命あるものと向き合うとき、誰もがその命を保とうとします。父が1974年に長野で共働学舎を起ち上げたときには、心を閉ざした子どもでも、動物と接することで心を開くかもしれないという着想がありました。これも、命と接することで命は活気づくという摂理に根ざしたものだったと思います。
命のあるものは腐りません。しかし一方で、死んだ途端に腐りはじめる。人間も動物も、生きているときから微生物と深く関わっています。こちらが生きているとき、彼らは例えば腸内で発酵作用を起こしているわけで、栄養素を分解して吸収しています。ところが、死んでしまった途端に発酵がだんだん弱まって腐敗に走っていって、肉体を腐らせながら土へと分解していくわけです。僕は体験的に気がつきました。発酵と腐敗の管理のコントロールのポイントは、母体が生きているか死んでいるかなんだ、と。そして物理的に考えると生きているということは、その中にエネルギーが流れている、つまり電位を持っていることになります。僕は物理学を学んだ人間なので、そういうふうに考えます。

生命体には微弱な電気の流れがある。微生物から動物、植物まで、それが生きている現場で適正な電位をもつことができれば、良い生命活動(発酵)が起こる。逆に電位を持たせられないときには、腐敗へと進む。牛を飼うことからチーズづくりまで、僕はエネルギーが適正に流れる場所を作ることを考えました。そのためにまず、建築資材には自然素材を使うことにしました。
チーズの熟成庫は、札幌軟石で建てました。数万年前に支笏湖のカルデラを作った大きな火山活動によって吹き出された火砕流が、ゆっくりと固まったものです。札幌南区の石山で切りだしてもらいました。高い買い物で、1万円札を積み重ねているようなものになりました。
それから、地上の建物はすべて木造にしました。できるだけ鉄材を使わないことを心がけたのです。そしてもうひとつ、エネルギーの流れを作り出すために炭に注目しました。乾電池に炭素棒が使われていることからもわかるように、炭はマイナスの電位を吸って上にはき出します。この流れが、生命にとって良い環境を作るのです。建物や牛舎の下、圃場にも炭をたくさん埋めました(炭の効用については稿をあらためましょう)。

するとどうなったか。腐敗が抑えられるために牛舎のいやな臭いが消え、ハエがほとんど湧かなくなりました。汚水の管理もとてもしやすくなりました。おかげで牛はいつもとてもリラックスできます。だから健康でおいしいミルクを出してくれるのです。牛舎の床は微生物が活発に活動している発酵床となって、その上に牛が座ります。冬でもおなかが温かくて快適なのです。発酵菌が出す分泌物が、ハエの羽化(さなぎからハエになる)をブロックすることは、帯広畜産大学の研究が証明してくれています。

そして、質のいい食べ物を作るために自然農法を探求しました。日本では岡田茂吉さんや福岡正信さん、そして、最近よく取り上げられる青森の木村秋則(奇跡のリンゴ)さんらが提唱されてきた農業です。しかしここでひとつ困ったことがありました。彼らの自然農法で重視する有機物の循環には、家畜のフンは含まれないのです。一般に自然農法では、土を冷やすからと、家畜のフンは土に入れません。しかし僕たちは牛を120頭、豚は40〜50頭、鶏も羊も飼っています。動物たちの排泄物をきちんと良い土に戻していく技術がなければ、農場は成り立ちません。

そこで僕たちは、牛フンが土づくりに一番いい材料だと唱える、バイオダイナミック農法を取り入れることにしました。宇宙の天体の動きまでをとらえた農事暦にもとづく農業です。近年ワインの世界でヴィオ・ディナミいう言葉が聞かれますが、これはバイオ・ダイナミック(フランス語でヴィオ・ディナミ)農法で作られるブドウをもとにしたワインのこと。農薬や化学肥料を使用せず、その土地が固有に備えている力をそのまま個性として引き出そうというものです。
なぜ牛フンが土に良いのでしょう。反すう動物は、人間が消化できない繊維質までを消化することができます。その中でもっとも消化管が長いのが、牛です。牛の消化管は、人間が分解できないセルロースやリグニンといった物質を分解する酵素を出します。その酵素が、繊維質をうまい具合に土に戻していきます。
また最近、リグニンやセルロースはひとつひとつのセルがつながっていて、この構造が、発酵菌が吸収するものをそろえるのにとても良い型であることがわかってきました。これを腐敗菌でばらばらにしてしまうと型が壊れてしまい、発酵菌がうまく生きられない。堆肥づくりで、腐敗菌が熱を急激に上げてしまうことがありますが、それでは良い堆肥はできません。しかしこの方法を使えば、牛フンをきちんとした土に戻していけます。

いろいろな取り組みをする中で気がついたのは、こうやって牛のため、チーズのためにつくってきた環境は、もしかしたら人聞が住んでいる環境にこそいちばん必要なのではないだろうか、ということでした。
そのころ、1989(平成元年)に、ある有名なフランス人と出会いました。ジャン・ユベールさん。フランスのワインやチーズ、バターなどにはAOC(原産地呼称統制、 アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ・Appellation d’Origine Contrôlée)という制度がありますが、そのチーズ部門の起ち上げに関わり、3代目会長として27年もリーダーを務めた人。いまは名誉会長としてご健在で、1990年から何度も十勝に来てくれて、3年前にも来てくれましたけれども、厳しい哲学者みたいな爺さんです。
僕は、アメリカ農業の真似をしないと誓ってそこまで10年ちょっと、有機農業を模索しながら、フランスのコフナという微生物資材を使ったり炭の粉を使って試行錯誤を繰り返していました。そしてユベールさんに会って、きちんと方向が定まったのです。僕と共働学舎新得農場にとって、とても高く大きなステップをのぼる挑戦がはじまりました。

「2014.06.16 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

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INDEX

宮嶋 望の発言

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

レポート