共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

真木共働学舎の取り組み

「新月の木」が開く新しい世界

前稿でふれた、本橋成一監督の映画『アラヤシキの住人たち』の舞台である真木共働学舎について、その後の動きをお話します。

真木共働学舎は、長野県小谷(おたり)村の山あいにあります。自動車で行ける道がなく、峠越えの4キロの山道を1時間半かけて歩くことでしかたどり着けません。都会の人から見ればいまどきありえないほど不便なところでしょう。冬には3〜4メートルの雪が積もります。
およそ4百年前に開かれた小さな集落ですが、高齢化のために廃村となってしまい人が途絶えたところに、1978年に私の父である宮嶋眞一郎(共働学舎創設者)と数人の仲間が生活をはじめました。父たちが暮らしはじめることで、やむを得ず山を下りた、最後までいたお年寄りたちもしばらくのあいだ、ときどき帰って行けるようになりました。

今村昌平監督の作品に『楢山節考』(1983年)があります。山深く貧しい村が因習にしてきたとされる姥捨てをテーマにした名作ですが、ロケ地が真木でした。つまりここはそんなイメージさえわいてくる山の集落なのです。共働学舎の運営に集中するために、父はロケ地となることをはじめ断ったのですが、なんとか使わせてほしいとねばり強く訴える今村監督に根負けしたのでした。

映画『アラヤシキの住人たち』では現在の真木での暮らしがありのままに記録されていました。ここでは近年、傷みが進んでいる建物の維持管理が問題になってきています。茅葺きの建物群には1尺〜2尺(約30センチ〜60センチ)もの柱などがふんだんに使われていますが、豪雪地帯で手入れが十分に行き届かなければ、どうしても痛んでいってしまいます。
そこでいま僕たちは、「新月の木」を使って建物を修繕したり建て直すことを考えているのです。また、かつてあった茅場を復活させて、茅葺きの技術を継承していけないかと話し合っています。

「新月の木」とは何か?
「新月の木」とは、冬季(12月)の新月の前一週間くらいのあいだに伐採して、その場所で数カ月間、枝葉を残したまま自然乾燥させてから製材する木材です。木は通常とは逆に谷側に倒します。林業の常識で考えればまったくの異端といえますが、一般の木材に比べて、無垢のままでも虫食いやカビ、腐食が格段に少なく、縮みや曲がり、割れなどの暴れもありません。この木で作った家で暮らせばシックハウスのアレルギーも起こらず、燃えにくく、さらには、家としての寿命を終えたとしても良質な古材として再利用もできます。

「新月の木(ドイツ語でNeumond holzノイモントホルツ)には特別な価値がある—。」
もともとこれは、オーストリアのチロル地方に古くからある伝承でした。そして営林署員としてチロルの森を知り尽くしたエルヴィン・トーマさんという方が、このことをあらためて科学的に探求しながら体系立った理論にまとめました。トーマさんはやがて自ら製材会社を立ち上げ、1996年には本を出版しました。当然、研究者や林業家たちのあいだでさまざまな議論がわきおこります。しかし今では、「新月の木」の有効性はかなり認められるようになっています。トーマさんの本は『木とつきあう智恵』というタイトルで地湧社から邦訳が出ていて、2004年には、僕も参画して日本に「新月の木国際普及協会」というNPO法人が立ち上がりました(事務局・千葉県東金市)。

「新月の木」はなぜ優れているのか。すべてが科学的に解明されたわけではないのですが、大づかみで言うと、「新月の木はほかの時期に伐採した木に比べて、含水率が低く、でんぷん質など養分が少ない。だから虫やカビが付着しない」と考えられます。また、通常の木材はボイラーで急速に乾燥させるため、木の細胞を破壊して強度を弱めます。これに対して葉枯らしの場合は、木は光合成を続けながら徐々に乾燥し、デンプン質を減らすことで木材を腐らせる菌を抑えることができます。

多くの林業家にとっては、伐採時期がほんの短い間に限定されてしまう「新月の木」だけを生産することは現実的ではありません。しかし安い輸入材に押され、後継者不足、人手不足に陥っている日本の林業にとって、価値の高い木材を自然の摂理にのっとって末長く生産することができる「新月の木」は、大いなる救世主となる可能性を秘めています。規模と効率ばかりをひたすら求める現代の社会の風潮とは別の場所に立って、土地と一体になった価値の高い林業が末長くできるはず。そう考える林業家たちは、全国で独自の取り組みをはじめています。

もともと僕たちは新得(北海道)で、大地と地球、宇宙の天体の動きまでをとらえた農事暦による農業、バイオダイナミック農法を実践しています。ですから「新月の木」の意味や可能性を、すぐ理解することができました。地球上のすべての生命活動は、太陽や月の動きに強い影響を受けています。人間もその例外ではありません。「新月の木」は、そうした生命の根源に立ち帰った新しい林業の提案と実践なのです。

「新月の木」の説明が長くなりましたが、昨年の12月、真木では、集落のまわりですくすくと成長していた60年以上の樹齢のスギを、新月の時期に伐採しました。26本くらいになりました。かつての集落の人々が代々活用していた林です。これらを使って、真木をさらに暮らしやすいところにしていきたいと思っています。

「2016.01.22 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

ホームへ戻る

INDEX

宮嶋 望の発言

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

レポート