共働学舎新得農場 代表 宮嶋望の発言と実践

宮嶋 望の発言

「共働学舎新得農場の成り立ち」

電子の流れから良い環境を構想する

牛舎から搾乳施設、そしてチーズ工房など、僕たちは牛や微生物にいたるまで、農場で暮らす生き物全体がより良く生きられる環境を作ろうと取り組んできました。そしてそれは自ずから、ここで働き暮らす人間にとっても、ストレスの少ない良い環境を作ることにほかならないのだと実感していきました。微生物から植物、家畜、そして人間の身体と心まで、世界はみんな複雑につながり、関わり合って成り立っています。

生きているものは腐らない。
この意味は、流れる水は腐らないということにも通じます。よどんだ水は腐る。だからエネルギーもうまく流さなければならない。それが重要です。
人間の細胞は60兆ほどもあるけれど、実はさらにその10倍もの数の微生物が体内で共生・共存している。そんな記述が日経サイエンス誌の記事にありました(2012年10月号)。体内の微生物といえば腸内細菌くらいしかイメージしていなかったので、驚きました。この記事のもとはナショナルジオグラフィックやネイチャーといった一流誌にのった論文です。これまでの常識をくつがえすような話を読み進むうちに、医療や薬学の分野からの圧力が想像されて、こんな内容がよく発表されたな、と思いました。どういうことか説明しましょう。

人間の遺伝子の種類は2万から2万5千種あるといいます。そして、ヒトの細胞の数の10倍もいて共存している微生物の総体(マイクロバイオームというそうです)は330万種類以上で、これらがもつ遺伝子の種類でいうと150倍。この種の微生物は基本的に、消化や免疫といった人間の生理機能を高めてくれる存在ですが、ということはつまり、人間が持っている対応力の150倍ものさまざまな対応力を微生物が提供していることになります。人間の身体はこうして、複雑きわまりないシステムとして生きています。例えば予防接種をすると、こうした微生物の複雑な関わりを断ち切ってしまうかもしれない。この記事は、複雑な現象のうちでほんのわずかに表面化するだけの問題に対処しようとする、現代の医療や医薬品のありかたを根本から問いなおす観点を持っていたのです。

農業でも同じです。アメリカなどでは、モンサント社の強力な除草剤ラウンドアップにも耐性のある雑草がいよいよ出現してきて、大きな問題になっています。
牧場には、有機物の循環系が通っています。家畜がいて堆肥があって、それで土を作って作物を実らせていく、という循環系です。この中で微生物の力を活用するために一番大切な場所はどこでしょう。温度がもっとも安定していて、ほどよい湿り気が絶えずあって栄養が供給されるところ。それは家畜の胃袋です。牛の場合は、4つの胃袋。
僕らが家畜にエサを一生懸命やるということは、微生物に栄養を与えていることにもなります。良いエサに有用な微生物や炭の粉をほどよくまぜると、フンそのものが菌種のもとになります。それが良い堆肥となって、やがて良い土になっていく。ある研究によると、そうした有機物の循環のうち、人間が食糧にするものは最高でも25%を超えないそうです。つまり四分の三は、人間が利用することなく牧場を循環している。すべての営みの裾野となるそうした循環を良いものにしていかなければなりません。化学肥料や農薬に頼ると、せっかくの良い菌種の活動をさまたげてしまいます。

牧場の有機物循環の中心は、牛の胃袋です。ここで良い菌種のもとができて、フンとして出てきて土と混じっていく。その場所は、エネルギーが良く流れる、「生きている場」でなければなりません。そこで鍵を握るのが、炭なのです。
僕たちの牛舎や畑の下には、炭の粉が棒状に埋められています。乾電池の中には炭素の棒が入っているのをご存知でしょうか。電池の中では、マイナスの電荷を持った電子がプラスの方向に流れます。つまり炭素棒は、マイナスの電子を引きずり込む力を持っているのです。ごく単純に説明しますが、この流れは当然地球の磁力線の影響を受けて、引きずりこまれた電子は上に引っ張り上げられ、そこは電子が湧いてくる泉になります。つまり炭を埋めることで、そこに電子を活発に流すことができるわけです。

この技術と知恵は、なんと縄文時代から使われていたことがわかっています。福井県の三室(みむろ)遺跡で見つかった竪穴式住居の跡からは、南北に2列ずつ、十字の形に炭が埋まっていたのです。そして遺跡の東西のラインの先に神社が建てられていました。また太田道灌は、江戸城をつくるときに大量の炭と塩と金粉を埋めています。金によって電導がさらに良くなるのです。僕はさすがに金粉を使うことはできませんでしたけれども。

さて下から吸い上げられた電子は上に流れますが、それがそのまま抜けてしまうだけでは、良い環境が生まれません。農場の建物はみな木造だというお話をしました。それは、電子の流れを生き物たちの近くにとどめておくためです。鉄材だと地面からの電子がそれを通ってすぐ上に逃げ去ってしまう。効率が悪いのです。また鉄材は冬は、寒くて夏は暑くなる。木材だと、ある程度の温度を保ってくれます。

新得農場では、電気をあまり使わず産業革命以前の技術を中心にしてチーズを作ることをめざした結果、牛舎とチーズ工房はとても近い距離に配置されています。建設に当たって保健所に申請をしたとき、所長さんから注文をつけられました。「衛生上問題があるので、ここは50メートル以上離してください」。
僕は聞きました。「フンの臭いと汚水やハエを管理すれば良いのでしょう? 炭と微生物を使えばできます!」
驚いたことにその所長は、法律ではないので、「じゃあやってごらんなさい」と言いました。それにはこんな背景もありました。当時新得には、保健所の本庁があり、その所長には許認可の権限がありました。所長は地域の精神障害者の管理も担っていて、僕らは、自閉症やてんかんの人など多くの地元の人を受け入れて、行政からの補助もなく暮らしている。そのことがあったので、農場を応援したいと思ってくれていたのでした。所長がお墨付きを出してくれたということは、失敗したときの責任のリスクまで負ってくれたということ。本当にありがたかったです。

さまざまなところでおびたたしい数が生きている微生物たちを、人間は、俗に善玉菌といわれるものから、悪いことをする悪玉菌、そして環境に応じてどちらにもなる日和見菌などと分類しています。
しかし人間の社会でもそうでしょうが、善玉だってときどき悪いことをする。どういうことかというと、宿主(例えば人間)の方の生命力が弱まると、彼らは悪さをします。こちらの身体が健康で、つまり高い電位をもっていると、彼らは良い共生関係を作る。しかし弱まってくると(電位が下がってくると)、自分たちが生きるために悪さをするのだと思います。
ならば、彼らにいつも善玉として生きてもらうためには、宿主(牛などの家畜や人間)や大地や設備まわりの電位をいつも高く保つようにすれば良い。このあたりの詳しい説明は、『いのちが教えるメタサイエンス―炭・水・光そしてナ チュラルチーズ』(地湧社)という本に書きました。
僕たちの生活とモノづくりの基盤には、以上のような考えがあります。

「2014.06.16 テキスト編集/谷口雅春(ライター)」

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宮嶋 望の発言

12という数字から

大病から生還して

土地に根ざしたものづくりの新展開

2017年の春に

真木共働学舎の取り組み

映画『アラヤシキの住人たち』に寄せて

「モンデュアル・デュ・フロマージュ2015」に参加して

「札幌豊平教会」建設55周年記念講演会から

「石狩家畜人工授精師協会第64回定期総会」での講演から

「2015年3月の宮嶋望セミナー」から

イタリアで考えたこと

共働学舎新得農場の成り立ち

レポート